第1章 グリーントランスフォーメーションとは
地球温暖化問題の深刻化が進み、異常気象が世界各地で起きている。この図は、過去約140年間の世界の平均気温の変化を示している。
2022年に国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表した最新報告書によると、産業革命以前の時代から既に世界の平均気温は約1.1度上昇しているとされる。現状のペースで温室効果ガスの排出が続けば、21世紀末までに+3.3〜5.7度の上昇が避けられないと警告されている。
こうした深刻な地球温暖化問題に対処するため、グリーントランスフォーメーション(GX)への機運が世界的に高まっている。GXとは、経済社会の構造をグリーン化(環境負荷の少ない形)に転換させていくことを指す。パリ協定で掲げられた「産業革命以前から1.5度以内に抑える」という目標達成には、あらゆる主体がGXに取り組む必要がある。
企業には、事業活動に伴うCO2排出量の大幅削減が求められる。製品のライフサイクル全体で排出されるCO2を、「Scope 1〜3」と呼ばれる以下の3つに分けて管理し、サプライチェーン全体での削減を進める必要がある。
加えて再生可能エネルギーの活用や、リユース・リサイクルなどの循環型ビジネスモデルへの転換も重要である。
一方で、私たち個人にも大きな役割がある。日々の生活の中で、過剰な消費を控え、食べ残しや賞味期限切れによる廃棄をなくすなど、フードロスの削減に取り組む必要がある。また、ごみの分別やリサイクルといった3Rを徹底し、公共交通機関の利用やカーシェアリングを選んで、CO2排出の少ない行動をとることも重要な意識改革となる。
地球温暖化問題は待ったなしの危機的状況にある。企業と個人が車の両輪となって、グリーントランスフォーメーションに全力で取り組まなければ、気候変動がもたらす深刻なリスクを回避することはできない。
第2章 企業に求められるGXへの取り組み
地球温暖化対策においては、企業の果たす役割が極めて重要である。企業活動に伴うCO2排出量は膨大であり、その削減なくしてグリーントランスフォーメーション(GX)の実現はありえない。企業に求められる主な取り組みは以下の3点である。
省エネ製品の開発と再生可能エネルギーへの転換
企業は製品の開発段階から、省エネ性能やライフサイクルCO2排出量を考慮することが欠かせない。またエネルギー使用に伴うCO2排出量を抑えるため、自社事業所での再生可能エネルギーの活用が求められる。太陽光や風力など再エネの導入を進めることで、エネルギー起源のCO2排出量を大幅に削減できる。
循環型ビジネスモデルへのシフト
製品の長寿命化やリユース、リサイクル、再生利用など、資源の循環を追求するビジネスモデルへの転換が不可欠だ。廃棄されずに資源を循環させることで、原料採掘や製造における環境負荷を最小化できる。業界を超えた企業間の連携により、使用済み製品の回収・リサイクル体制の確立も進められている。
GXの実現に向けては、これら削減目標の設定と具体的ロードマップの策定、CO2排出量の情報開示など、企業による取り組みの透明性確保も重要な課題となっている。企業は環境経営の推進とともに、ビジネスモデルそのものを根本から見直すイノベーションが求められている。
第3章 個人に求められる意識改革と行動変容
地球温暖化対策において、企業の役割は重要であるが、一人ひとりの意識改革と行動変容なくしては本格的なグリーン化は実現できない。私たち個人にも、以下の3点が求められている。
過剰消費からの脱却
地球に過剰な負荷を強いる一因として、大量生産・大量消費・大量廃棄という”使い捨て”のライフスタイルが指摘されている。必要以上の物や食べ残しを出さない節度ある生活へと転換し、ごみの発生抑制につなげることが重要だ。
フードロス削減と3Rの実践
世界で毎年約13億トものフードロスが発生しており、温室効果ガス排出の大きな要因になっている。賞味期限切れによる食品廃棄をなくすなど、フードロス削減に努める必要がある。また、ごみの分別を徹底し、リデュース(減量)・リユース(再使用)・リサイクル(再資源化)の3Rを実践することも重要だ。
エコな移動手段の選択
自家用車は1世帯当たりのCO2排出量が最も大きい。可能な限り、公共交通機関の利用やカーシェアリングなど、環境に配慮した移動手段を選択することで、大幅にCO2排出量を抑制できる。環境負荷の少ない電気自動車への切り替えも選択肢の一つとなる。
一人ひとりの小さな行動の積み重ねが、大きな環境改善につながる。ライフスタイル全般について見直し、日々の行動に環境配慮を組み入れる意識改革が不可欠である。政府による情報発信や規制だけでなく、消費者一人ひとりが自発的に実践していく必要がある。企業の取り組みとあわせて、個人の行動変容がグリーントランスフォーメーションを加速させるのだ。
第4章 GXの担い手として期待される若者の力
グリーントランスフォーメーション(GX)の推進力となるのが、環境問題への高い関心を持つ若者たちの存在だ。近年、世界各地で若者を中心とした環境保護運動が活発化している。
学生運動から見るGXへの高い関心
2018年、スウェーデンの当時15歳の女子高生、グレタ・トゥーンベリ氏が「校休デモ」を開始した。これが契機となり、”Fridays For Future”と呼ばれる地球温暖化対策を求める若者の運動が世界的な広がりを見せた。気候変動危機に警鐘を鳴らし、政府や企業に対して stronger ammitmentを求める若者たちの声は大きな反響を呼んだ。
アメリカでは、2019年3月に950を超える環境NGOや学生グループが参加して「ユース・クライメート・ストライキ」を実施。日本でも東京や大阪で気候変動対策を訴えるデモ行進が行われるなど、若者を中心とした機運が高まっている。
ソーシャルビジネスや新しいライフスタイルの創造
このような運動を通じ、若者たちの間では環境問題への問題意識が着実に高まってきた。持続可能な社会の実現に向けて、それぞれができることから実践する若者も増えている。リユース業界の活性化や、フェアトレード商品の販売、環境教育分野の起業など、ソーシャルビジネスに挑戦する若手起業家も現れている。
また、シェアリングエコノミーの広がりを受け、所有から共有へとライフスタイルを転換する若者も目立つ。カーシェアや賃貸服といった「サブスクリプション」サービスの利用に見られるように、過剰消費から脱却する意識の高まりがうかがえる。
環境問題への危機感を持ち、新しい価値観を背景に動き出した若者たち。GXを実現していく上で、彼らが中心的な担い手となることへの期待は大きい。企業や政府は、画期的なアイデアと旺盛な行動力を持つ若者とともに、GXを実現する仕組み作りに取り組んでいく必要がある。
第5章 GXを通じた持続可能な社会の実現へ
グリーントランスフォーメーション(GX)は、環境対策を経済発展の新たな原動力に転換させる、まさに一石二鳥の取り組みである。GXを通じて、持続可能な社会を実現することができれば、気候変動リスクの回避はもちろん、新たな経済的価値の創出にもつながる。
多様なステークホルダーによる対話の深化
GXを推進するには、企業、投資家、市民社会、政府など、あらゆるステークホルダーの参画と、相互の対話が不可欠である。例えば、ESG投資の広がりを受け、企業は環境経営に積極的に取り組むインセンティブが高まっている。一方で、企業の情報開示に対する市民社会の監視の目も厳しくなっている。お互いのチェック機能が働くことで、GXへの取り組みは加速していく。
企業と個人の相乗効果で加速するグリーン化
第2章で述べた企業の環境経営と、第3章の個人の意識改革・行動変容が、相乗効果を生み出すことでグリーン化は一気に進展する。環境に配慮した製品・サービスへのニーズが高まれば、企業もその供給を加速させる。逆に、企業による環境配慮型の製品開発が進めば、個人のグリーン消費を後押しすることにもなる。
GXは経済発展の新たな原動力に
グリーン化を経済成長とトレードオフの関係とみなすのは旧態依然の発想だ。再生可能エネルギーの導入や、省エネ・長寿命化製品の開発、リユース・リサイクル産業の活性化など、GXに向けた新たな産業が生み出される。さらに、環境への負荷が少ない新製品・サービスへの需要が高まれば、それが次なるイノベーションを促進する。このように、GXは環境対策と経済発展の好循環をもたらす。
これからの時代、GXへの取り組みは一企業や一個人の取り組みを超え、社会全体で推進していく必要がある。多様なステークホルダーの対話を一層深め、お互いが好循環を生み出しながらグリーン化を進めていくことが何より重要となる。GXは気候変動危機を脅威から新たな価値創造の機会に転換するためのビッグウェーブなのだ。
まとめ
地球温暖化による異常気象の深刻化が、世界各地で現実のものとなっている。IPCCは現状のペースでは21世紀末までに平均気温が3.3〜5.7度も上昇すると警告し、グリーントランスフォーメーション(GX)への機運が世界的に高まっている。
GXとは、経済社会の構造を根本からグリーン化に転換させていくことだ。企業には製品ライフサイクル全体でのCO2排出削減、省エネ製品の開発と再生可能エネルギーの活用、そして循環型ビジネスモデルへの転換が求められる。一方、個人には過剰消費から脱却し、フードロスの削減と3Rを実践すること、さらにはエコな移動手段を選択することが重要となる。
環境問題への高い関心を持つ若者たちは、ソーシャルビジネスや新しいライフスタイルを創造しながら、GXの中心的な担い手となることが期待されている。
GXの実現に向けては、企業、個人、政府など、あらゆるステークホルダーの対話と参画が不可欠である。グリーン化への取り組みが進展すれば、企業と個人の好循環が生まれ、環境対策と経済発展の新たな好循環が生まれる。
気候変動問題は待ったなしの危機である。しかし同時に、GXへの挑戦を通じて新たな価値を創出できる可能性をも秘めている。一人ひとりが、この大きなうねりであるGXに乗り遅れることなく、行動を変革し、持続可能な社会を実現することが何より重要なのだ。
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